年が明けた。
養成スクールを卒業する年、俺は俳優を将来の職業にすることを辞めていた。
理由は色々あるが、大きな理由は自分では解決できないものであり、かつ、他人には言いたくないので詳細は言わない。
ただ、本当にどうしようもなかった。
道をひとつ失った俺は、公認会計士を目指して簿記の勉強を始めた。
理由は単純で、試験さえ受かれば金を稼げると思ったから。
実家に帰省したときに会計士を目指していることを親父に話すと、知り合いの会計士の先生を紹介してくれた。
会計士の試験の話、仕事の話をいろいろ聞けると思い、俺はとても期待して先生の事務所に向かっていた。
「もっと広い視野をもって世の中を見なさい。大学に行ってみてはどうかな。」
おいおいおい、期待していたアドバイスとは全く違うぞ。
もっと背中を押してくれよ。
あなたと同じ職業を目指す若者がいるんだよ。
そう内心思っていたが、先生は自分が中央大学、慶應義塾大学に通ってどんな世界を見たのか、どんな人達と交流していたかを楽しそうに語りかける。
俺が大学? むりむり、勉強したことねぇよ。会計士のこと聞きづらいなぁ。
帰りの車の中、俺は思った。
「あまり役に立たなかったな、帰って簿記の勉強しよう。」
次の話
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